水と剣の物語 Second Generation

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zoom RSS 水と剣の物語Second Generetion 第1話

  作成日時 : 2007/03/04 22:23   >>

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1、
 各務龍平は高々と振り上げた木刀をゆっくりと振り下ろす。口腔に残った空気は全て鼻から押し出された。その空気は溶けた鉛のような熱さである。ひとたび息をつくと、龍平の身体は滝壺から吹き上げられた冷たい空気で満たされた。
 長い戦いだった。昨夜の午前2時ごろ、いわゆる丑三つ時から、龍平は一晩中、これと剣を交えていたのである。
 彼の足元には錆び付いた抜き身の刀が転がっている。ついさっき、龍平がこの木刀で叩き落したものだ。この一撃で崩れ落ちた骸骨は、微かな風に震える朽ちた衣をまとわりつかせて、再び長い眠りについている。
 夜明けまで粘ったおかげで倒せた相手である。つい1時間前までは、夜の闇を強靭な肉体としてまとい、氷のような刃を振るう強敵だった。一晩中探し回ってここまで追い詰めたのである。夜が明けてしまえば、身体は霧となって溶け、刀にははそれ相応の時間が流れる。彼らはこの時代のものではなく、この世界のものでもない。あとは、迷うことのないよう、もと居たところに帰してやればよい。それは、龍平の木刀によってのみ為しうることであった。
 龍平は木刀を細長い麻布の袋に包む。紺のネクタイを手早く締めて、近くの枝にかけた制服のジャケットを羽織った。
 「やったか?」
 薄暗い杉の木立の中から、昆野なつきが長い髪をかきあげながら現れた。もう登校するばかりに制服をまとっている。龍平は、なつきの問いなどには答えない。小柄な姿をしばし眺めてから、そっぽを向いて言った。
 「そんな制服で、怪我をするぞ。」
 確かに、道もないようなこんな山の中では、ふくらはぎにミミズ腫れの一本や二本できてもおかしくはない。しかし、龍平は、別になつきの足の心配をしたわけではなかった。だいたい、なつきは太ももまで見えるほど短いスカートを履くような、イマドキの女の子ではない。面白くないのは、自分が一晩中、死闘を展開していた山の中に、スカートをひらひらさせて現れたことであった。
「そんなヤワにはできていない。」
 なつきは、スカートの裾をめくって、口元に微かな笑みを浮かべた。白い膝には、かすり傷ひとつない。龍平と同じ17歳でも、小学生にしか見えない童顔のなつきであるが、その笑いは、初夏の朝の空気のように爽やかで冷たい。
 龍平は、なつきの脇をすりぬけて歩き出した。なつきの出て来たあたりに、下草に覆われた山道がある。
 打ち砕かれた骸骨には目もくれず、なつきはくるりときびすを返して龍平の後を追う。
 龍平は手に持った木刀の袋を肩にかついだ。袋には「蛟龍館」と刺繍がしてある。
 「そんなものをまだ持っていたのか。」
 なつきの身長は、龍平の肩に足りない。龍平にぴったりついて歩くなつきは、ムチ打ち症になるくらい無理して上を見上げていた。
 「剣道はもうやめたんだろう。」
 「いくら日の出前でも、木刀なんぞ裸で持って歩いたら補導されるだろ。」
 早朝の杉の木立は暗い。虫の声がどこからか聞こえてくる。ブレザーの制服を着た高校生2人がぴったり前後にくっついて、とことこと山道を降りていく。
 「ついてくるなよな。一人で学校へ行け。」
 つっけんどんに言う龍平は、振り向こうともしない。下草に覆われたゆるい坂道を、さっさと歩いていく。
 「お前こそ一人で闘うんじゃない。」
 長身で足の長い龍平が先に行く。身体の小さいなつきは全力で追いかける。カバンの取っ手に下げたマスコットがせわしなく揺れる。鈴付きの招き猫である。鈴がちりんちりんとうるさく鳴るのを、龍平はなつき自身の小言のように聞きなしていた。

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コメント(2件)

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おはようございます♪

遊びに来させていただきました〜。まずは第一話。龍平くんとなつきちゃん、楽しみな感じです〜。学校でも目立ちそうだなぁ〜龍平くん…。
大抵は朝ですが。また、読みに来ますね〜!
らんらら
2008/09/05 08:20
 ご覧下さいましてありがとうございました。
 この2人、けっこういいコンビだなと思って書いてます。
 どうぞ続きもご覧下さい。
兵藤晴佳
2008/09/17 23:18

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